ダイバーシティ&インクルージョンの進化に挑む、
MSDが着目する「脳の多様性」とは
掲載日:2024年10月30日
私たちMSDでは、「最先端のサイエンスを駆使して、世界中の人々の生命を救い、生活を改善する」というパーパスを追求する上で、多様な人財を活かすことを重視しています 。そのため、性別や年齢、人種といった背景や、価値観などの多様性を尊重し受け入れることで、社員一人ひとりが最大限の力を発揮できるよう、DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)の取り組みを推進しています。
DE&Iをさらに一歩進化させるため、MSDがいま着目しているのが「ニューロダイバーシティ(脳・神経の多様性)」です。
DE&Iを浸透させるため毎年9月に開催している「DE&I月間」の中で、今年は「日本型ニューロダイバーシティ」を提唱しているNeurodiversity at Work株式会社の代表取締役 村中 直人先生をお迎えし、社員セミナーを開催しました。当日は、村中先生に「脳の多様性とアコモデーション」についてご講演いただいた後、MSDの社員ネットワーク*のメンバーも交えたパネルディスカッションが行われました。今回の記事では、この新しい概念「ニューロダイバーシティ」を紐解き、MSDが着目する理由についてお伝えします。
【講師】
Neurodiversity at Work株式会社 代表
臨床心理士、公認心理師
村中 直人先生
人の神経学的な多様性に着目し、脳・神経由来の異文化相互理解の促進、および働き方・学び方の多様性が尊重される社会の実現を目指して活動。
思っている以上に人はすでに違っていて多様な存在
あなたは、重要な話を聞くときに「メモを取らないと、理解・記憶ができない派」でしょうか、それとも、「メモを取ると、理解・記憶ができない派」でしょうか。
村中先生の講演はこうした問いかけから始まりました。「重要な話を聞くときはメモを取る」ということは、教育やビジネスシーンでは 「当たり前」のこととして捉えられていますが、村中先生によれば、この問いかけをすると「メモを取ると理解・記憶ができない派」が必ず一定数存在すると言います。
さらに、「朝型」か「夜型」か、興味を惹かれやすいのは、物語や感情の動きなど「人間」に関することか、それとも、物理的な法則性やシステムなど「ものごと」に関することか、と質問は続きます。こうした質問一つひとつをとって見ると、「実は思っている以上に人は違っていて多様」なことに改めて気づかされます。
講演中の村中直人先生
パネルディスカッションの様子
ニューロダイバーシティとは
人間を理解する上でのパラダイムシフト(発想の転換)
ニューロダイバーシティを直訳すると「脳・神経の多様性」。従来そのほとんどのケースで、自閉スペクトラム症やADHDなど発達障害を持つ方々(ニューロマイノリティ)の就労促進や活躍支援の文脈で語られてきました。
ニューロマイノリティ人財への支援が重要であることに変わりはありませんが、ニューロダイバーシティを「脳・神経の働き方の多様性」という本来の意味で捉えると、考え方や視点、特性など脳や神経の働き方の違いにおいて、一人ひとりが多様性の当事者です。この広義の捉え方を「日本型ニューロダイバーシティ」と呼びます。
「“人間なんだからみんな大体同じ”という発想から、“人間なんだからみんな一人一人違うはず”という発想へと転換し、多数派・少数派のどちらかに寄せるのではなく、それぞれにあった生き方、働き方、学び方を考える転機に来ているのではないでしょうか」、村中先生はそう語ります。
レンガモデルから石垣モデルへ
組織への導入のカギは「心理的安全性」と「アコモデーション」
このパラダイムシフトは企業経営においても非常に重要であり、生産性向上やイノベーション創出に直結すると村中先生は指摘します。
レンガモデルから石垣モデルへのパラダイムシフト
レンガモデル:
- 組織内の個々の人財を、同じようなスキルや特性を持つ均質的な存在として扱う
- 個々の特性や強みが生かされづらく、多様な視点や能力を発揮する機会が制限される
石垣モデル:
- 多様な人財が、それぞれの違いを認め合い、互いに補完しあう
- 異なる視点や能力がシナジー効果を生み、組織全体の創造性や適応力が向上する
単に多様な人財を集めるだけではシナジーは生まれません。一人ひとりに内在する、知識、スキル、発想、価値観など目に見えない「違い」を認識し、それらをうまく活かすことがカギとなります。そのためには「違い」を安心して表現できる「心理的安全性」が極めて重要だと村中先生は強調します。さらに、例えば朝型・夜型の違いを踏まえた勤務スタイル、静かな環境や適度な背景音などの作業環境、休憩の取り方といった、個々人が特性にあわせて働き方を「アコモデーション(調整)」できる職場環境を提供していくことも必要だと語りました。
MSDが目指すニューロダイバーシティ
イノベーティブで変化に対応できる組織へ
MSDがニューロダイバーシティに着目している背景には、これまで進めてきたDE&Iに根差した企業文化をさらに進化させたいという思いがあります。
MSDでは女性の活躍推進(女性社員比率29%、女性管理職比率29%、女性執行役員比率50%(2024年8月時点))や、「社員ネットワーク*」活動、障害者雇用などDE&Iについて幅広い取り組みを推進してきましたが、製薬業界ではコロナ禍をきっかけにDXが加速的に進み、医師の働き方改革がはじまるなど、業界を取り巻く外部環境の変化があります。製薬業界はもちろん、業界外からも多様な背景や経験を持つ社員が増える中、組織も柔軟に変化させていく必要があります。
MSDの人事部門統括の齊藤 香織は、人財の多様性が一層加速する中で、それぞれの特性や強みを活かしつつ、組織を強固にしていくためにはDE&Iをさらに進化・深化させる必要があると話します。
人事部門統括 齊藤 香織
「ニューロダイバーシティの考え方は、あらゆる違いを認め多様性を尊重するMSDの価値観に通じるものです。これを取り入れることで、イノベーティブで変化に対応できる、柔軟でしなやかな組織を築いていけると考えています。」
ニューロダイバーシティは、多様性が「ある」か「ない」かではなく、多様でないものを「多様にしよう」という運動でもありません。脳や神経由来の人の多様性という「事実」に対して、私たちがどう向き合うのかが問われています。この言葉で社員向けセミナーは締めくくられました。
今回のイベントは、参加した社員にとって多様性に対する考え方の幅を拡げ、「他者との違い」や「特性」とは何か、それらを活かした働き方とは何かを改めて考えるきっかけとなりました。私たちMSDは、多様な背景や価値観を持つ社員一人ひとりが、自分らしく最大限のパフォーマンスを発揮できるような環境づくりを今後も推進していきます。
*社員ネットワークとは
MSDでは部門の垣根を越えて、共通のテーマに関心を持つ社員が自主的にネットワークを組織し活動しています。現在、women’s networkや子育て&介護ネットワーク、Rainbow Allianceなど7つの「社員ネットワーク」があり、会社に対して発展的な提言を行うなど社員自ら職場環境づくりに主体的に取り組むとともに、社員同士の交流の場にもなっています。詳細はこちら
(※役職と内容は取材当時のものです)