社員の小さな声が組織の変化に:「生理休暇」を「エクイティ休暇」に名称変更。
MSDの社員ネットワーク「Women’s Network」の活動
掲載日:2023年9月20日
MSD Women’s Network
末廣 久美子(研究開発本部)
岡田 知大(カスタマー&ストラテジー部門)
富山 愛子(研究開発本部)
足森 洋子(プライマリーケア/スペシャリティメディスン & ワクチン部門)
MSDは2023年9月1日に、これまでの「生理休暇」を「エクイティ休暇」へと名称を変更しました。きっかけは、MSDの社員ネットワーク「Women’s Network」(ウィメンズネットワーク。以下、WN)の働きやすい環境づくりチームの提案でした。彼らの活動に対する思いや、名称変更までの経緯をWSの主要メンバー4名に語ってもらいました。
さまざまな立場の人が最大限に自分の能力を発揮できる環境のもと安心して働けるように。
―まずはWNの働きやすい環境づくりチームの活動について教えてください。
末廣:私たちのチームは、“働きやすさ”を「さまざまな立場の人が、自分の可能性を最大限に発揮できる環境下で安心して働けること」と定義し、そのための地盤づくりとして、“「知らない」から「知る」へ”をテーマに相互理解のきっかけづくりを行っています。これまで、育休取得経験がある男性とのパネルディスカッションや、更年期についての全社レクチャーなどを企画・実施してきました。
生理などの体調不良については、周囲に話せず悩みを抱え込んでしまう人が多い。相談しやすい環境をつくって安心感を。
―生理休暇の名称変更のアイデアはどのように生まれたのでしょうか。
末廣:このメンバー4人でキックオフミーティングを行ったときから「女性の体調不良」にフォーカスしていきたいよね、と話していました。手始めとしてまずは、どんな課題があるのかを理解するために、2022年4月に体調不良に関するアンケートをWN内で取ったところ、157名の回答(女性130名、男性27名)を得ました。特にPMS(月経前症候群:生理前に現れるこころや体の不調のこと)に関する悩みが多いということがわかり、2022年7月にPMSについてディスカッションをする少人数のグループ座談会を行いました。
富山:私たちは“「知らない」から「知る」へ”をテーマに活動しており、座談会は相互理解を促進するうえで非常に良い場になりました。同じ女性であっても、生理のつらさは人それぞれ。通常業務を行うことに支障がない人からすると、「(生理がきたら)寝込みます」といったコメントには驚きがあったと思います。
足森:その座談会の中で、「生理休暇という名称がダイレクトであるがゆえ、上司(特に男性)には言いづらい」というコメントがありました。「生理休暇」は労働基準法で定められている当然の権利ではあるものの、コミュニケーションすることへの抵抗感が多かれ少なかれあり、取得しづらいという課題が浮き彫りになりました。そのため、生理でつらい時は「生理休暇」ではなく、休む理由を伝えなくても済む「有給休暇」を使っている、という声も複数ありました。
岡田:私は男性ですが、私自身、こういったネットワークに参加してコアメンバーになって、本当に良かったと感じています。PMSについても、アンケートや座談会で生の声を聞くことで、知ったことや分かったことが多くあります。女性ならではの体調不良を男性が理解することで、働きやすい職場環境は作られやすくなりますよね。
私が座談会を通して感じたことは、責任感が強く我慢強い方が多くいらっしゃって、PMSの影響で体調が悪かったとしても、周囲に言わず自分でなんとかしようとしている印象を受けました。今ではメジャーな働き方になったハイブリッド・ワーキングモデルは、その時の体調に合わせて働き方を調整できる選択肢の1つになっているということも分かりました。
社員ネットワークから出た意見に、小さくてもいいから変化を起こすことで応えたい。
―座談会で出た社員の声を、どのようにアクションにつなげていったのでしょうか。
末廣:座談会後にチーム4人でディスカッションを重ねていくなかで、「小さくても、実現できるかもしれない変化」を積極的に提案し、トライしていこうという方向性が固まりました。今起きている悩みに対して、小さなことでもいいから短期で成果を出すことが重要だと考えたのです。そこで、WNのスポンサーになってくださっている経営陣や人事のメンバーへの相談を重ね、「エクイティ休暇」への名称変更が実現しました。
今回の名称変更によって全てが解決するとは考えていません。課題を解決させるためには体調不良に関する社員の理解向上が不可欠ですが、これは時間をかけてやっていくものですよね。このほかに、短期の成果が見込めそうな案として、オフィスの椅子の色を汚れが目立たない黒にしてほしいといった提案も行っています。
岡田:今回の名称変更をきっかけにして、生理に限らず、体調や状態についてもっと周りに言いやすくなる、相談しやすくなる環境が整うといいなと考えています。それぞれの背景や状況を踏まえて、お互いにサポートし合うことができれば、まさに「エクイティ」という名前に込められた願いが実現されるのではないでしょうか。
―今後の活動について教えて下さい。
富山:これからも継続的にWN内外に発信を続けて「知る機会」をつくり、広めていきたいです。海外のMSDのWNは社外でボランティアを行っている地域もあります。日本のWNでも、社外での活動も含めて、周囲にポジティブな影響や効果を出せるよう取り組んでいきたいです。
足森:活動のなかでは「どう周りを変えるか」という観点で議論されることが多いですが、私は同時に「自分たちも変わっていかなければいけない」と思っています。「分かってよ」と心の中で言っていても状況は変わりません。自分からどうしてほしいのかを発信し、意思表示することが大事です。でも1人では言いづらいし、心細い、そういうときに社員ネットワークを活用してほしいです。
これからも1人ひとりの想いや声を吸い上げて、変化につなげていくことを続けたい。
―最後に、皆さんにとっての「エクイティ」を教えて下さい。
富山:同じチャンスが目の前にあっても、チャンスを掴めるタイミングは人それぞれ。たとえば、出産を控えた人や子育て中の人は、“今”じゃないこともある。どんな状況にあっても同じチャンスを掴めるというのが、「エクイティ」だと思います。
足森:相互理解と自己理解が重要であることを強調したいです。「エクイティ」は日本語で「公平性」ですが、自分がこうしたい、と思ったときにチャンスが与えられれば公平だと感じますよね。自分の状況や気持ち、今無理だとしても数年後ならできるのか、といったことに自ら気づいて言葉にして周りに伝えること。それが「エクイティ」を受け取るための第一歩だと思います。「エクイティ」は労力なしで受け取れるものではなく、自分自身で取りにいくものでもあると感じています。
一方で、管理職は、部下が意思表示してくれた場合は、それを一旦受け止め、伝えてくれたことへの感謝を伝えることも重要だと思います。ビジネスのことを考えると全ての申し出を受け入れることは難しいですが、話してくれたことを真摯に受け止めることは必要ですし、私自身もそうありたいと思っています。
岡田:シンプルに、「お互い様精神」のことだと思います。自分と他人は違うことが当たり前で、だからこそ相互理解が大事です。僕は男性でWNに入ったから言えることですが、「背の高い人は、背の高いところから見えるものが当たり前になってしまう」のと同じで、誰しも自分の状況が他人にも当てはまると思ってしまうところがありますよね。相手は自分と違うんじゃないか、という視点でまず物事を見ること、そのうえで、分からなければ教えてほしいと乞うこと、そして、相手の話を真摯に聞くことが大切だと思います。
末廣:私も「お互い様」という言葉を使いたいですね。自己主張だけではなくて、相手が何をしたいかを理解することが、健全にやりたいことを話し合える土壌をつくると思います。
お互い様の土壌を作るためには、やはり「知ること」が大事なので、WNとしてもこれからも「知らない」から「知る」ための働きかけを行っていきたいですし、それをきっかけに小さな変化でも一歩ずつエクイティを育んでいくサポートができたらと思っています。
<「エクイティ休暇」への名称変更までの流れ>
2021年9月 ”働きやすい環境づくりチーム” 現在のメンバーでキックオフ
2021年12月 男性の育休について考えるセッション実施
2022年4月 体調不良に関するアンケート実施(157名回答(女性130名、男性27名))
2022年7月 PMSに関するグループ座談会実施
2022年12月 「PMS(月経前症候群)についてご存知ですか?』セッション実施
2023年3月 人事部門へ名称変更を提案
2023年6月 継続的に人事部門とミーティング
2023年9月 「生理休暇」を「エクイティ休暇」へ名称変更
<MSD Women’s Networkについて>
2011年に発足し、現在では300名以上のメンバーが参加しているMSD社内最大の社員ネットワークです。メンバーの約25%は男性社員。「ビジネスへの貢献に向け、ジェンダーに関わらずすべての個人がリーダーシップを発揮できる文化の醸成をサポートしていく」ことをミッションに掲げ、さまざまなイベントを企画・運営しています。
(※役職と内容は取材当時のものです)